コラム 阪神つばめ学習会 10周年

こんにちは、理事長の柿本です。

私の古巣である阪神つばめ学習会が2025年8月で10周年を迎えました。10年前に庄司さんから声をかけられて、阪神つばめ立ち上げメンバーとなったことで私の人生は大きく変わりました。そんな庄司さんからのメッセージが公開されていたので、こちらにもアップさせていただきます。


阪神つばめ学習会 10周年のご挨拶と、感謝を込めて

2025年の夏、阪神つばめ学習会は、活動開始から10年という大きな節目を迎えました。

NPO法人としての一歩を踏み出してからも、9年の歳月が流れます。

気がつけば10年。

この長いようで短かった日々を無事に重ねてこられたのは、ひとえに、この活動を様々な形で支えてくださったみなさまのおかげです。

まずは、この場をお借りして、関わってくださった全ての方に、心より深く、御礼申し上げます。

本当に、ありがとうございます。

この10年という節目に、理事長として、そしてこの活動を始めた一人の人間として、いま、胸にある想いを少しだけ(それでも長いけど)、ここに記します。

『私がこの活動を始めた理由』

私がこの活動を始めたきっかけは、いま思えば、とてもシンプルな想いでした。

「費用を気にすることなく、学びたい子供が、学びたいだけ学べる場所があればいいのに」

経済的な事情によって、子供たちの可能性の芽が摘み取られてしまう。その現実に、ずっともどかしさを感じていました。

2013年に後の西宮市長となる今村岳司さんと出会い、「行動する大切さ」を実感しました。その学びをすぐさま実践し、2014年、西宮の児童養護施設へ勉強を教える活動を始めました。

しかし、1年間試行錯誤しながらやりましたが、うまくいきませんでした。

当時はうまくいかない理由がわかりませんでしたが、いまならハッキリわかります。

需要がなかったからです。

児童養護施設で生活する子供たちに満足してもらえるだけの「学べる場所」を提供できる資本や能力がなく、結果として満足度が低い状態となり、需要がなかったからだと、いまは理解できます。

うまくいかなかったときに、ふと思ったのです。

「うまくいかないなら、自分でうまくいく無料塾をつくればいいじゃないか」

そんなとき、ネットで検索して東京のNPO法人(当時。現在は認定NPO)八王子つばめ塾を見つけました。

無料塾をつくるため、一歩目の行動を起こしたのが、10年前。2015年5月31日のことです。

前日に新宿で宿をとり、約束の15:00に向けて電車に乗っていました。14:00ごろ、府中駅で停車する車窓から、競馬場へ向かうであろう人々の熱気を感じました。その日は「東京優駿」、日本ダービーの開催日だったのです。

(このまま電車を降りて、ダービーを生で観戦したい)

いまだから話せますが、そんな誘惑が一瞬、心をよぎったのをはっきりと覚えています。笑

ですが、誘惑を振り払い、約束の地へと向かいました。私が訪ねたのは、東京で既に無料塾を運営されていた「八王子つばめ塾」の小宮理事長の元でした。

15:00にお会いしてから、気づけば時計の針は19:00を回っていました。その4時間のうち、3時間45分は小宮理事長がこれまでの豊富な経験を語ってくださる時間でした。(しかもシラフで!)

実は私は、訪問前に「無料塾を運営するのに乗り越えるべき課題」を12個、自分なりに(そして大前繁明と飲みながら)リストアップして臨んでいました。小宮理事長が語る言葉の中に、私が頭を悩ませていた課題の答えが、一つ、また一つと見つかっていきます。

そしてついに、最後の12個目の課題を乗り越える具体的な方法がクリアになった瞬間、心の中の霧が晴れました。

「これなら、自分でも関西でできる」

そう確信したのです。

あの日、あの時の確信が、この「阪神つばめ学習会」の、小さくとも大きな第一歩となりました。

『私の心を支えてくれた、忘れられない光景』

10年間も運営していると、本当に、さまざまなことがあります。

嬉しい日もあれば、運営の難しさに悩む日もありました。

そんな日々の中で、ふと「ああ、この活動をやっていてよかった」と心から思う瞬間があります。

4年前のことです。生活困窮世帯の子供から、「難関国公立大学受験の指導をしていただけませんか?」との問い合わせがありました。お話を伺うと、想像を絶するほどに過酷な状況です。

それでもご本人は、進学への強い意思を持ち続け、ようやく掴んだ数年越しの千載一遇のチャンスでした。

話を聞き終えた時、理事全員の想いは一つでした。

「こんなハンデ戦、あまりにフェアじゃない。阪神つばめに出来ることはすべて差し上げたい」

2次試験は、来週に迫っています。

もしかしたら、1週間で結果は左右されないのかもしれない。

それでも、私たちは諦めません。私たちは、宮崎先生まで担ぎ出して、その子のために全力の態勢を組みました。

「この瞬間のために無料塾をやってきました」

無料塾に携わるみなさまそれぞれに、こんな想いを抱くときがあると思います。

この想いが、ずっと無料塾に携わるエネルギーとなるのでは、と思います。


『感謝を伝えたいみなさまへ』

そして、私のこの活動は、決して一人では成り立ちません。この場を借りて、改めて感謝の気持ちをお伝えさせてください。


「ボランティアでご協力くださるみなさまへ」

講師として、また運営スタッフとして、貴重な時間を子供たちのために注いでくださるみなさまのその行動には、感謝しかありません。多様な知識や経験を持つみなさまとの出会いは、子供たちの世界を広げるだけでなく、他ならぬ私自身の人生の幅を、どれほど豊かなものにしてくれたか分かりません。本当にありがとうございます。


「阪神つばめ学習会を応援してくださるみなさまへ」

私たちのささやかな活動を「見つけて」くださり、物心両面で温かいご支援を寄せてくださる篤志家のみなさまの存在なくして、この10年の歩みはありませんでした。みなさまの想いに支えられているからこそ、私たちは子供たちと向き合い続けることができます。心より、御礼申し上げます。


「志を同じくする、全国の無料塾運営者のみなさまへ」

この場をお借りして、全国で同じように無料塾を運営されているみなさまにも、心からの感謝と敬意をお伝えしたいです。地域も、運営の形も、考え方もそれぞれに異なります。しかし、子供たちの未来を想う情熱は、みんな同じです。各地で日々邁進されているみなさまの姿に、私はいつも大きな勇気と刺激をいただいています。時にシンポジウムなどで連携し、知恵を出し合う時間は、何物にも代えがたい貴重な機会です。「一人ではない」と、みなさまの存在を本当に心強く、頼もしく感じています。


「そして、生徒と保護者のみなさまへ」

たくさんの選択肢がある中で、この阪神つばめ学習会という場所を選び、信頼して通い続けてくれる生徒のみなさま、そして温かく見守ってくださる保護者のみなさま。本当に、本当にありがとうございます。みなさまの成長と未来こそが、私たちの活動のすべてです。


『未来へ:私が目指すこれからの10年』

この10年という節目に、私は阪神つばめ学習会の「次の10年」について、真剣に考えています。

子供たちを取り巻く環境は、この10年で大きく変わりました。私たちが向き合うべき課題も、より複雑で、多様になっています。

そして、その「次の10年」を見据えた時、私の中で一つの大きな決意が固まりました。

この場を借りて、みなさまにご報告があります。

来年、2026年に行われるNPO法人阪神つばめ学習会の理事改選をもって、私は理事長を辞したいと考えています。

ですが、これは決して後ろ向きな決断ではありません。むしろ、この大切な場所を未来永劫続けていくための、小さくとも大きな一歩だと、私は信じています。

一人の人間に依存する組織ではなく、理念に共感する多くの人々の力で動く、より強く、よりしなやかな組織へ。阪神つばめ学習会がそのように進化を遂げるためには、新しい世代に舵を取ってもらう時が来たと判断いたしました。

この学習会を立ち上げた私の、最後の、そして最大の仕事は、「私がいなくても、さらに発展していく仕組み」を整え、未来を託すことだと考えています。


『おわりに:感謝を、未来への力に変えて』

このブログを通じて、私はたくさんの感謝の気持ちをお伝えしてきました。その全てが、私の偽らざる本心です。

そして今、その感謝の気持ちを、未来への力に変えたいと願っています。

私の理事長としての役目は、来年で一つの区切りを迎えます。

しかし、阪神つばめ学習会の物語は、決して終わりません。むしろ、ここから新しい章が始まるのです。

どうかみなさまには、新しいリーダーのもとで始まる、阪神つばめ学習会の「第二章」を、これまでと変わらぬ温かい目で見守り、支えていただけますよう、心よりお願い申し上げます。

10年間、本当に、本当にありがとうございました。

そして、これからも、阪神つばめ学習会を、どうぞよろしくお願いいたします。


NPO法人 阪神つばめ学習会

理事長 庄司 知泰

阪神つばめ学習会 設立当時のチラシ

NPO法人 東海つばめ学習会(無料塾)

東海地方で教育機会に恵まれない子どもたちへ学習支援を行っています。